地域に開かれたコミュニティ・スクールの可能性

地域の人の力を借りて学校の問題を解決しよう

 シチズンシップ教育は、さまざまな立場の大人が加わることで子どもの学びが深まると説明しましたが、学校に地域の人が入ってくることで、子どもだけではなく学校側にも良い変化が期待できます。 

 これまで、学校の教育力低下の問題に対して、国が行ってきたのは「不適格教員の排除」「先生の能率アップ」など、現場の先生にばかり責任を押し付けるような教育政策でした。しかし状況はいっこうに改善されません。学校の中だけで解決するには限界があるのです。これからは学校と保護者、学校と地域の住民、学校と地域企業が信頼関係を結び、協力しながら学校教育をつくっていく意識を持たなければ、問題の本質を解決することはできません。

 もともとアメリカやイギリスでは、学校運営に地域コミュニティが関わる文化があり、こうした学校は「コミュニティ・スクール」と呼ばれてきました。

 この仕組みは日本の公立学校でも試験的に取り入れられ。2004年の地方教育行政法改正によって、希望する学校はオフィシャルに導入できるようになっています。

 コミュニティ・スクールは、教育委員会や教員だけで学校運営を行うのではなく、地域住民を巻き込み、協力しながら学校を運営することができる仕組みです。実際に導入した学校には、保護者や住民が加わる「学校運営協議会」が置かれ、校長がつくる方針を承認したり、運営について教育委員会や校長に意見を求めることができます。

 文部科学省はこのコミュニティ・スクールを「学校と保護者や地域の皆さんが知恵を出し合い、学校運営に意見を反映させることで、一緒に協働しながら子供たちの豊かな成長を支え『地域とともにある学校づくり』を進める仕組み」と定義しています。

 コミュニティ・スクールの指定校は、2016年4月現在2806校で、公立校全体の9%に達します。また市町村にある小中学校すべてがコミュニティ・スクールという自治体の数も79にのぼります。

 ただしまだ地域によって導入にばらつきがあり、関西では京都府京都市・城陽市などで積極的な導入がなされていますが、兵庫県や大阪府ではほとんど広がっていません。市長や議会、教育委員会の熱量によって差が出ているのが現状です。

 しかし、この状況は2017年の法律改正によって大きく変わることになります。これまで、コミュニティ・スクールの導入は各自治体や教育委員会の判断に委ねられていましたが、学校運営協議会の設置が「努力義務」として課されることになったのです。つまり「やりたいところはどうぞ」という方針から「地域を巻き込んだ学校づくりを進めてください」と求められるようになりました。今後はこの法改正がコミュニティ・スクールの広がりを後押ししていくことになります。

 

 皆さんも、教育現場のさまざまな問題に対して知恵を出し合い、解決のために主体的に関わることができるようになります。これから日本中の学校で地域住民や地域企業が学校運営に携わるようになるでしょう。

 たとえば、先生の負担軽減については、子どもの進路指導を学校の先生だけが行うのではなく、キャリアコンサルティングのプロが加わってもいい。PTAを学校運営協議会と一緒にして、保護者以外の人もメンバーに加わり学校行事の日程や予算などを学校の先生とつくり上げることもできます。

 もちろん公教育ですから教育基本法をはじめとした法令を逸脱することはできませんが、外部の人を学校に入れ、柔軟に取り組むことで、想像以上に面白いことができるでしょう。

 地域には会社をリタイアしたけれどまだまだ元気な人、保護者世代で積極的にコミュニティ活動に参加できる多様な人材がいます。例えば、すでにコミュニティ・スクールを導入している杉並区では、朝、先生が教職員会議に出ている時間帯に、地域の人がクラスで百人一首や計算ドリルをさせています。新しく導入されるグローバル教育やプログラミング教育においても、教員自身がにわか仕込みの知識で教えるよりは。地域住民に協力を仰いで良質なコンテンツを提供したほうがいいでしょう。学校を良くしていく主体は多いほうがいい。先生から保護者、さらには保護者以外の地域住民へとどんどん広げていきましょう。

 

今後、未指定の地域もコミュニティ・スクール導入の議論が進められます。「持続的でWin-Winの協力」を広げ、皆で学校をつくっていきましょう!